「相談に行っただけなのに…」カツラメーカーへの復讐劇 前編

株式会社スヴェンソン所属。毛髪技能士の資格を有する、髪のプロで構成された編集スタッフ。髪コトを通して、皆さまが抱える髪の悩みや不安、疑問を少しでも解決できるよう、分かりやすく情報を届けていくことを心掛けています。

男性は髪を結っていた。カツラでこんな髪型が出来るのだろうか?思わず目を見張った。
「あらかじめ伝えておきます。お世辞は言いません」
取材開始早々、男性はきっぱりとインタビュアーにそう告げる。少し緊張感のある空気が漂った。

「今のカツラメーカーを選んだきっかけは、復讐のためです」
復讐、とは。その理由を全て、男性は事細かく語ってくれた。

―――

20代前半、髪がなくなるなんて予想もしなかった

衝撃が走った。それは、まだ薄毛を気にせず平穏な日々を送っていた23歳の若かりしころ。昼下がりの午後だった。その日は休日。自宅の風呂場でシャワーを浴びた後、鏡の前でドライヤーを片手に髪を乾かしていた。あの時、やけに窓から差し込む光がまぶしかったことを覚えている。目を細めながらドライヤーを頭部めがけて当てていたのだが、その日差しがちょうど頭のてっぺんに入り込んできた。その瞬間、鏡に映った自分の頭を見て目を疑った。髪じゃなくて、皮膚が見えている。

変な脂汗がにじみ出てきた。焦った俺は部屋から手鏡をもう1つ持ってきて、合わせ鏡で頭のてっぺんをおそるおそるのぞいてみた。完全に頭皮が透けて見えている。

「ちょっと待って。俺って、こんなに薄かった?」

全く薄毛に気付いていなかった自分にショックを受けた。周りからは髪の毛のことを何も指摘されたことはなかったが、急に「この頭、どう思われているんだろう」と不安な気持ちになった。20代前半の俺にとって、髪の毛がないことは、目がない、耳がない、眉毛の片方が永久に生えないくらい、大きな衝撃だったのだ。

薄毛になるのは遺伝だと聞く。確かに俺の父親は髪の毛がなくてつるつるだった。祖父も同じ。これも運命と受け止める器は俺にはなかった。そして薄毛に気付いてから、これまで気にしなかったようなことが気になるようになった。

頭を気にする男性

朝起きて、枕の下に落ちている髪の毛の量を確認したり、シャンプーをするたびに毛が抜けることに焦りを感じたり…。このまま放置したら毛がなくなってしまうと思った。薄毛を「どうにかしたい」と考えた俺は、週刊誌や新聞、本などを買いあさり、薄毛の悩みを解決する方法を探しまわった。育毛剤も購入し毎日マッサージをしてみたが、抜け毛は止まらない。育毛剤を使っても単なる気休めにしかならず、新たに毛が生えるわけではなかった。

歯が痛いときは歯科医に見てもらえばいい。目の調子が悪ければ眼科に行けばいい。でも、毛が薄くなるのは病気じゃないだろうから、どこに行けばいいのか。どうしたらいいのか。さらに悩みは深くなり、アリ地獄に引きずり込まれていくアリのような気分で毎日をうつうつと過ごしていた。

わらにもすがる思いで、カツラメーカーへ駆け込んだのに

薄毛に衝撃を受けてから半年近く経ったころだろうか。絶望の淵にいた俺に一縷の望みをつないでくれた出来事があったのだ。それは、あるテレビのCMだった。

「薄毛についての悩みを無料で相談!」

CMで流れるうたい文句に、淡い期待を抱いた俺。すぐにわらをもつかむ思いで、CMのお店に駆け込んだ。

カウンセラー

しかし、無料相談は名ばかりのものだった。対応したスタッフは開口一番にこう言い放ったのだ。「このままだと、あなたは髪の毛がなくなりますね」

さらに、カタログを見せられながら、追い打ちを掛けられた。

「あなたの場合、こちらのタイプの薄毛になります」

俺は、どんなタイプの薄毛になるのかを教えてもらいにここに来たのではない。薄毛の悩みを相談しにきたのだ。はらわたが煮えくりかえった。でも、たたみかけるように話を続けるスタッフ。すかさず、カツラを勧めてきた。

「スペアのものを含めて3つお買い上げいただきます。製品が壊れて修理をしている間、スペアが必要です。1つにつき50万円ですから、お値段は150万円になります。では、本日はサンプルとしてお客様の毛髪を預からせていただきます」と言いながら、俺の髪の毛をプチッと切り取った。「大事な髪の毛をどうするつもりだ」と言い返せないうちに、また話が始まった。

「このサンプルをいただきまして、お試し用に1つかつらを作りますので。1週間経ってお客様からお返事がなければ、そのまま実行させていただきます」

結局、何も言い返すことができず、お店を後にした。帰宅しても、まるで夢の中にいたような気分でしばらくボッーと考えていた。

「相談に行ったんだよな俺」

我に返った俺は、ようやく高額でカツラを購入させられそうになっていることに気付いた。1週間経ったら大変だ。翌日、再びお店に出向いて、契約解除をお願いした。しかし、「1つくらい作ればいいのに」などと、しつこく引き留めてくるスタッフ。

「1つくらいだと?」

これ以上傷口を広げられたくはない俺は、「結構です」と言い張って何とか解約までこぎつけることができた。

とうとうカツラライフを始めた俺

これに懲りてと思いきや、やはり悩みは解消したかった。とにかく、行動あるのみ。次にCMで宣伝していた別の店にも足を運んでみると、そこのスタッフは、真摯に悩みを聞いてくれた。とはいっても、相手も商売だから、いろいろ勧めてきた。

「育毛のコースとカツラのコース。どちらがご希望でしょうか?」

育毛は難しいだろうと感じた俺は、カツラのコースを選んだ。前回の件でカツラには抵抗があったものの、話だけでも聞いてみようと思った。扱っているカツラは人工毛で180にも耐えられるという。しかもドライヤーの熱にも強い。値段は30万と最初に行ったお店よりも比較的お手ごろ価格だった。

「ないよりはましか」

俺の薄毛を解決する方法はカツラしかない。ついに購入を決めた。出来上がったものは、七三分けの髪型。俺の髪質に合わせて少しパーマが入っていた。頭に装着してみた感触は、「こんなもんだよな」と予想通りのものだった。半ばあきらめた気持ちのまま、20代で俺のカツラライフが始まったのだ。

 


この物語に出てくる「編み込み式の増髪」はスヴェンソン。スヴェンソンは、髪型を変えるように髪を増やすことが自然な選択肢になってほしいと考えています。「増髪(ぞうはつ)」というコンセプトのもと、髪を増やすことは男磨きのひとつとして、様々なサービスを提供しています。

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公開日:2019/11/29

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