薄毛で入社3年後の全社同期研修(後編)

株式会社スヴェンソン所属。毛髪技能士の資格を有する、髪のプロで構成された編集スタッフ。髪コトを通して、皆さまが抱える髪の悩みや不安、疑問を少しでも解決できるよう、分かりやすく情報を届けていくことを心掛けています。

屈辱の全社同期研修が終わり、私の気持ちは固まっていました。

「増毛する!!」

スマホで情報収集をするなんてことは当時あり得なかったので、TVCMのフリーダイヤルをメモしたり、週刊誌や新聞の広告情報を見つけては切り取って保管していました。

するとどうでしょうか。何某有名二社の広告がほとんどを占めていました。

「広告できるくらいの会社だし、大手の方がしっかりしているだろう」

そう思って、その二社のうち、家に一番近くに店舗があるA社に公衆電話で電話をして、相談に行きました。

公衆電話

私が気になっていた商品は地毛の根本に2~3本の人工毛を結び付けて増やしていくタイプのものでした。それに対し、お店で勧められたのはいわゆる金具で留めるタイプのカツラでした。

それでも私は「カツラは使いたくない」という気持ちが強く、初志貫徹で結び付けていくタイプを契約しました。最初に一定期間分の毛材を購入して使っていくとのことでした、価格は40万円。「2年分くらいはあるでしょう」と当時言われました。

ただ、当時の私には価格や使用期間などは自分の中ではあまり重要ではなく、とにかく「薄毛から卒業したい」一心でした。

入社以来大切に貯めていた貯金を一気にここで投じました。

貯金箱

相談したその日に契約をして、早速施術をしてもらいました。4時間はかかりました。一本一本の地毛が少し引っ張られて、思いのほか苦痛な時間でした。でも我慢した甲斐あり、見た目は確かに増えました。目標は達成したのです。

明日からの生活が楽しみで仕方がありませんでした。

しかしこの心地よい時間がそう長く続くことはありませんでした。

見た目は確かに変わりました。でも満足できる期間はおよそ1週間くらいだったでしょうか。

結んだ毛が浮いてくるので、髪が伸びるとどんどん頭皮が薄く見えるようになっていくのです。

また、結んだ毛が良く抜けるんです。施術する前より抜け毛が多くなったのは明白でした。さらに抜けたものが机や床に落ちた際は「この世のものではない物体」が下に落ちることになります。それは「ほうきの形」をしています。

他には
・ブラシが通りにくい(ブラッシングするとさらに抜ける)
・2週間に一度のメンテが面倒
・説明のペースよりも本数の減りが早い

という不満もありました。それでも大きな投資をしたので諦めるわけにもいかず、使い続けました。

抜け毛

購入してから3か月が経ちました。抜け毛が尋常ではなく、明らかに結んでいる部分の地毛が薄くなっていく気がして、これらの不満をお店のスタッフにやんわりと伝えました。

そうすると、想定外の答えが…

「そうなると思っていました」

「だから最初からカツラタイプの方が良いと言ったじゃないですか」

悔しさ、情けなさ、怒り、それぞれの感情が入り混じり、わけが分からなくなりました。

さらにトドメ。

「今の商品がまだ1年半分くらいありますから、特別に5万円で下取ります。そのお金を頭金として2個100万円でカツラを作りましょう!今お金が無くてもローンを組めますよ。こちらの方が安心して使えます」

私は今後のあてもなく不安しかありませんでしたが、その顧客を小ばかにした提案を断りました。
3か月経ち、残ったのは悔恨と絶望だけでした。

絶望

 

3か月振りに地元の床屋さんに戻り、順番待ちをしていた時に、その時読んでいた写真週刊誌の広告が目に留まりました。

「西ドイツで生まれた編み込み式増毛法」「蒸れない・ずれない・外れない」

そこには怪しげな外国人がプールでにっこり笑っている写真もありました。

「そんなことがあるわけない」「嘘の広告め」「ふざけんな!」「怪しすぎる」

そう思ってその時はやり過ごしたのですが、あの怪しい外国人の笑顔が頭に焼き付いて離れませんでした。さらに

「ドイツ=ベンツ=高品質・質実剛健」「金具式ではない」「薄毛の自分の姿を見なくても良い生活」

という風に、怪しかったはずのものが、だんだん自分の都合の良い解釈になっていきました。

「もう聞くしかない」

ラストチャンスと思い、相談に行きました。

お店の中にいくと、30代くらいの男性が現れました。そして第一声。

「私、製品を愛用しているので、なんでも聞いてくださいね~」

全くカツラだということがわからず、腰が抜けそうになりました。スタッフが自ら愛用して生活している。事実だし、これ以上の説得力はない。「これこそ自分が求めていたものだ!」そう確信しました。

こうして、私は新しい髪を手に入れました。

家族や友人、会社の人にも宣言しました。

「すごいな!これならつけていた方がかっこいいね!」

あれだけ私の薄毛をイジッていた人達から、称賛の嵐!その後は何事もなかったように私の髪の過去は忘れられていきました。

屈辱の全社同期研修から半年。

今度は3日間の合宿研修。億劫なはずの研修が億劫に感じませんでした。

 

同期

久々に同期と会いましたが6か月前の私の姿を忘れている人がほとんどでした。だれも人の容姿など自分が思うほど気にしていないのです。

そして研修後のお酒の席。もう薄毛ネタでイジられることが無くなりました。何も気にすることもなくお酒を楽しむことができましたし、何より研修に仕事に集中できるようになりました。

会社の同期研修をきっかけに増毛をしたことは、今振り返ると人生という長いスパンの中でもターニングポイントだったと思います。

 

公開日:2019/12/11

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